Thule Magazine vol.21 ダブルダッチパフォーマーKAIKai
幼少期からさまざまなスポーツに親しむ。高校の部活でダブルダッチを始め、22歳でプロのパフォーマーに。2017・2018・2019年、3大会連続の世界チャンピオン。現在は「REG☆STYLE」と「CAPLIORE」という2つのチームに所属し、日本各地や海外の大会、イベント、テレビなどで活躍している。シルク・ドゥ・ソレイユのアーティストとして参加した実績を持つ。
2本のロープを巧みに回して、ダンスするかのようにたくみに跳ぶ「ダブルダッチ」。はじめたきっかけは?
-中2のとき、都立目黒高校の文化祭で見たのがダブルダッチとの出会いです。ダブルダッチ部のパフォーマンスを見て「なんだこれ!」って(笑)。絶対にこれをやる!と決意して、受験勉強も頑張りました。入学後に部活で始めてのめり込みました。当時、ダブルダッチはほとんど知られていなくて、見たことがあるという人がいればラッキーだなという時代。高校でダブルダッチ部があるのは、全国で目黒高校ともう1校だけでした。とはいえ、ダブルダッチ部はすごく人気で、僕の代で20人ほど、1学年下で30人くらいと大所帯。部員も多いし、パフォーマンスの衣装も髪色も派手だったから、目立つ存在でしたね。
最初はどんな練習をするのですか?
-一番難しいのはロープを回すことなので、最初の2〜3ヶ月はロープを回すことに時間をさきます。といっても、始めたては跳びたいという気持ちがすごく強いので、回しながら自分なりに跳んでみるんです。それを繰り返していくうちに、自分のやりたいことがだんだん見えてきます。踊ってみたいのか、アクロバットをしてみたいのか、最高速度を上げていくみたいな跳び方をしたいのか、普段の倍速くらいで踊りながら跳ぶのか、なんとなくジャンルとかやりたい方向が見えてきて、それを学んでいく、得意分野を見つけていくというのがセオリーです。僕の場合は、全部やりたかったので、全部やります!っていう(笑)。ダブルダッチとしては、それもOKなんですよ。各々にやりたいことにフォーカスするタイミングがあって、個性が生まれていきます。ダブルダッチには夏の学生向けの大会、プロもアマチュアも関係なく競う冬の大会と2つの大会があるのですが、その大会と文化祭に向けて練習を積み重ね、まさにダブルダッチライフという高校時代でした。
ダブルダッチのどんなところに惹かれたんでしょうか
-それまでにもスポーツはいろいろやっていまして、野球、サッカー、バスケ、水泳とテニスと(笑)。親父が野球の監督で、母さんがバスケの監督をしていまして、生活の中心にスポーツがまずあって、その中で勉強したり友達と遊んだりみたいな環境で育ちました。それらのスポーツにはきちんと固まったルールがあるけれど、ダブルダッチにはルールがない。2本のロープさえあれば何をしてもいい、そのときどきの気持ちで動けるというところに惹かれましたね。自由で想像力が働くパフォーマンスにワクワクしました。性に合っていたのかもしれないですね。
高校卒業後は?
-将来の夢は、ダブルダッチのプロになるという一択でした。大学受験は親の手前もあり形だけ(笑)。大学で勉強する時間をダブルダッチにあてたいと思っていました。高校時代からお世話になっていた、日本大学のダブルダッチサークルが、インカレという形で外部の人でも入れる状態にあったので、そこに入って練習に明け暮れ、それ以外の時間はバイトや興味があることを勉強するという生活になりました。大学に進まないということで、親とはずいぶんバッティングしました。当時は親から否定ばかりされていると思っていたし反発するも、今思い返すと否定だけじゃなかったかな。「『思う方向に進めばいい』って言ってしまっていいのかな」と母親自身が迷っているような、そんな空気感もあったって思います。今はもちろん理解してくれています。
仕事につながるきっかけは?
-日大のサークル活動の中で、憧れていたプロのチームと会うタイミングがあったんです。プロのパフォーマーというのは、そのパフォーマンスや指導も含めて、ダブルダッチを通して仕事をしている人。出会ったその日に「一緒に練習しないか」と誘ってもらいました。そのチームは5人だったんですけれど、指導などいろいろな活動をしていましたから、4人でしかパフォーマンスができないときがあるんです。そんなときに助っ人として呼ばれるようになりました。僕の得意な部分なんですが、すべての動きが身体に入っているので、いろいろなパートに参加させていただきました。
一緒にやらせてもらうことが増えていく中で、ポジションや人によって見せ方が違うことや、人間性、プロとしての作法、パフォーマンスするということがどういうことか、チームの中で向き合って話し合う姿勢とかを学びました。サークルにいた4年間、そのチームで勉強させてもらい、卒業のタイミングで正式に加入することになりました。僕もパフォーマンス中に聞いたんですけれど(笑)、「なんと今日、KAIが加入することになりました!」って。え〜っ!て周りもびっくりする中で発表してもらって、そこからプロライフが始まっていきました。
プロとしてのお仕事の内容は?
-いろいろな場所によんでもらって、パフォーマンスするというのがまずあります。今週も昨日までは名古屋、明後日は山形という感じで、日本中、世界中でパフォーマンスしています。僕の中では教育者という文脈もあって、スタジオの運営、実際の指導、それから日本サッカー協会の「夢の教室」で登壇しています。「夢の教室」は、各分野で活躍されている方が日本の各地を巡り、自分の夢を叶えるまでの挫折や経験、どうして夢を叶えられたかというのをお話して、夢と勇気を伝える活動なのですが、それもライフワークの一つとしています。ダブルダッチってひとりではできないスポーツなので。人と向き合って、ひとつのパフォーマンスを作り出していく、そんなダブルダッチに誇りをもって成長していった子たちが、社会に出ていくことって大事なんじゃないかと思っています。
お忙しい毎日ですね
-最近だと、大会のゲストショーとして後輩たちとのコラボチームで出演するということになりまして、昼間はそれぞれパフォーマンスや指導をし、夜に集まって朝まで練習するというのを2〜3週間ほど続けていました。その間に地方でのパフォーマンスもあったので、疲労っていう意味でのしんどさはありましたが、そんな中でも明るくいようという気持ちがあります。僕らの後ろには、若手やダブルダッチで夢見ている子たちがいるので、ひとつひとつのパフォーマンスを全力で臨めるように、常に明るくいたいなっていう気持ちがすごくあります。
座右の銘じゃないですけれど、「なるようにする」っていう言葉が好きです。なるようになるじゃなくて「する」です。ぼっーとしないで、自分でちゃんと道筋をたてて行動していきたい気持ちが大きいです。あとは「嘘でもポジティブ」という言葉も好きです。先ほどの話もそうですが、身体がしんどくても、明るく自分がいれば気持ちも上がってくるし、パフォーマンスみてくれる人にも楽しいなという気持ちが届けられる。「死ぬまで跳ぶ」というのも目標のひとつですが、自分で考えて明るくい続けることが、跳び続けることにつながるって思っています。
CAPLIOREとREG☆STYLEの2つのチームに所属しています
-CAPLIOREはサークル卒業後に所属した、先輩たちが中心のチームで、メンバーは主にシルク・ドゥ・ソレイユのアーティストとしてワールドツアーなどで活躍していました。シルク・ドゥ・ソレイユはラスベガスなどに常設の劇場があるほか、ワールドツアーは地域を変えながら世界中を回ります。最近、日本にもアレグリアが来ていましたね。僕も以前はシルク・ドゥ・ソレイユの一員として、毎日何千人もの前でパフォーマンスをしていました。プロフェッショナルの集団ですし、ワクワクする経験でした。シルク・ドゥ・ソレイユでは、新しいツアーに行くタイミングで新たに契約を結ぶのですが、CAPLIOREがチームごと世界に出ていくと、国内のダブルダッチ界が手薄になります。日本国内でダブルダッチを繋いでいく人になりたいという思いが強くあり、あるときから僕だけ契約はせず、日本に残ることにしました。そんなタイミングで、REG☆STYLEから声がかかり、加入することになりました。今は個性的な五人が揃って、これぞREG☆STYLEというチームになっていると思います。
REG☆STYLEでは、世界大会で三度も優勝しています
-1回目、2回目は、もちろん心と身体はすり減らしながらではあったけれど、優勝することができました。2019年の3回目の大会のちょっと前、宙返りした瞬間にアキレス腱を切るという大怪我をしたんですね。その怪我のタイミングで人生のどん底みたいな思いや大変なリハビリがあったのですが、それ以上に自分やチームに本音で向き合わなければいけない瞬間がありました。
というのも、僕が天狗になっていたところがあるんです。シルクも行っていたし、先輩たちとやっていたし、REG☆STYLEのメンバーに対して「おまえら、ほんとにプロなの?」って思っていた部分があって、加入当時はもやもやした思いがありました。だからといって、何かを変えようとする気持ちもなくて、「今の俺はこれでいいんだ」と頑なになり、よくない沼にどんどん入っていくような状態で。といっても、REG☆STYLEにはREG☆STYLEのいいところがあってそれがどんどん伸びていきました。
そんなときにアキレス腱を切り、チームメイトに本音を言えなかった自分とか、悪い意味で自分を正当化していた現実に気付くことができました。自分にも仲間にも正直になり、3回目の世界大会に挑むにあったって、これまでのパフォーマンスは自分のためにやるダブルダッチだったな、これからの人生は自分じゃなくて自分じゃない人たちのためにダブルダッチをしようと思った瞬間があったんです。それからはいつもと同じパフォーマンスなのに、泣いている観客がどんどん増えていって・・・。自分たちの気持ちの向く方向が違うだけで人に感動を与えられるし、ありがとうの気持ちを伝えられるんだなって。チームとしても過去最高にいい状態で、決戦を迎えることができました。3回目の世界大会は、人生と世界がこんなに明るくて楽しいものなんだっていうくらい、ガラッと何かが変わった大会でした。
国内外の移動にはTHULEのキャリーを?
-日本中、世界中をぐるぐる回っている毎日なので、旅のバッグは重要です。でもTHULEのキャリーに出会うまでは、キャリーはあまり使いたくなくなかったというか(笑)、リュックとトートに荷物を詰め込んで移動していました。というのも、キャリーのすべりが悪かったり、軽さが微妙だったり、道路がガタガタだとストレスを感じることが多かったんです。THULEにはそういったストレスがまったくないので、少量の荷物でもキャリーを使おうとなるし、利便性の塊だから移動の幅が自由になりましたね。車輪の動きがスムーズだから、財布を出したりするときに、キャリーをくるっと回転させたりして楽しんでいます。タイミングが合うと楽しくて(笑)。付属でコスメバックがついているのも、面白いし、便利ですね。テンションがついていて厚さが調整できるので、着替えなどを詰めています。
THULEのリュックの使い心地は?
-どこにいくにもTHULEを背負って、生活の10割使っています(笑)。コンパクトなのに容量が大きくて、全部入ってくれるのがいい。普段、自転車に乗ることが多いのですけれど、自転車に合うリュックを選ぶのって結構難しいんです。大きすぎると邪魔だし、小さすぎると入らないし、ある程度の量が入りながらちゃんとフィット感があるのがほしいなと思っていたタイミングでTHULEと出会い、自転車ライフが進化しました。ピタッと身体にはフィットするのは、とても気持ちがいいですね。
THULEのリュックはいくつか持っているのですけれど、どれもポケットが多くて、サングラスを入れられるポケットがついていたり、肩のベルトのところに自転車のキーを入れられるような隠れポケットがあったり、それぞれ利便性がすごく高くて助かっています。僕は、バッグの中でごちゃごちゃさせちゃうタイプなので、整理できるのは助かる。それにキャリーとリュックの色が、揃っているのがいいですよね、2個セットで使いたくなります。
バッグはアイデンティティの表現のひとつですよね
-キャリーとリュックの2つセットで歩いていると、しょっちゅう「どこの?」って聞かれます。そしてTHULEを語るというくだりを毎回やってしまっています(笑)。デザインと機能って、どっちかに偏っているということはよくあるけれど、揃っていることは少ないと思うんです。シンプルなのにデザイン性もよくて、ブランド名を主張しすぎないさりげなさもあって。そうそう、こどもの頃は毎年冬になると、家族でスキーやスノボに行っていたのですが、車に載せるルーフキャリアがTHULEでした。そのときは意識していなかったんですけれど、今改めて出会ってロゴに懐かしさも感じます。これも縁ですよね。
今後の夢や展望を教えてください。
-REG☆STYLEとしては、僕らの力でダブルダッチの可能性をどこまで広げられるかっていうことを常に考えています。それにまつわることはすべて挑戦して、いけるところにまでいきたいです。世界大会を制覇したけれど、それはあくまでそれは競技の中の話。世界中の人にダブルダッチに興味をもってもらって、オリンピックとかにどんどん繋いでいきたいし、業界を押し上げていきたいという気持ちが大きいです。それと同時に、次世代の子たちの育成ですね。子どもたちの夢になれるように、夢が見られるように、夢を叶えていけるような環境を作ったり指導をしながら、いちチャレンジャーとして自分も体が動く限り跳び続けていきたいな。これからもいろんな大会に挑戦しつづけたいなと思っています。
いいですね。オリンピックの競技になったらみんなが楽しめますね
-ありがとうございます。‘32年の大会に正式種目になることを目指して、今みんなで頑張っています。そのころに自分が選手として参加しているのか、若手のスターを育成したほうがいいのか、そのときになったらおのずと自分のやるべきことが見えるかなと思っています。心も体も自分の一番いい状態をつくりつつ、オリンピック競技にするという作業を目指して頑張ろうと。
ダブルダッチをやってみたいという方に、メッセージを
-ダブルダッチは単純に2本のロープがあれば、楽しめるスポーツです。興味を持った方は、友達を集めてやってみてほしいです。練習するにも少なくても3人は必要で、4人、5人、6人と集まっていくと、どんどん楽しい輪が伝わっていきます。その中で、こんな跳び方あるねとか、次の練習までにこれを試してみたいねとか、この人とこの人が組んだほうがうまく回せるとか、面白いとか、いろいろな発見があって、どんどん楽しくなっていくと思います。その人に合ったダブルダッチが無数に存在します。僕も違うグループでやるときは、跳び方が変わります。僕が思うのダブルダッチの楽しさは、そういった自由さと、ひとりじゃできないところです。想像力豊かにパフォーマンスも作れるので、今でも毎回新しい発見ばかりです。