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Thule Magazine vol.15 フォトグラファー保井 崇志Takashi Yasui

1980年生まれ。2010年に趣味で写真を始める。Instagramとの出会いをきっかけに、2015年にフリーランスフォトグラファーに転身。InstagramやXなどのプラットフォームを通じての企業案件やアーティストの撮影など、新しいフォトグラファー像を追求している。

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創業は易く守成は難し
継続する姿勢
そのものを作品に

フォトグラファーのお仕事を始めるまでの経緯を教えてください

-30歳のときに姪っ子の写真を撮ってあげようかなとカメラを買ったことがきっかけで写真にハマっていきました。昔から文章を書くことや本を読むことが結構好きで、写真を始める前からブログを通じて文章の発信はしていたんです。そこに写真が乗っかってきたのが10年くらい前。当時はInstagramもまだなくて、姪っ子や地元の公園を撮ったりと、真剣に誰かに向けて発信するわけではなく自分が撮りたいものをとって文章を書くということをやっていました。そこから劇的に変わったきっかけは2012年。Instagramを始めたことで、届く範囲がまったく違うということを実感して、そこからハマっていきましたね。

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©Takashi Yasui

写真の影響は森山大道さんの存在が大きいと伺いました

-2011年ごろに森山大道さんの展示を初めて目にして、それから撮る写真も発信するスタイルも変わっていきましたね。森山大道さんの展示から「街をこんなふうに撮るのか」と感じたことがきっかけで真剣に街を撮り始めました。

街の写真の魅力を感じたポイントはどんなところだったのでしょうか

-カメラを持つことで今まで見ていた景色がまったく違って見えてくるし、景色を見る視点も変わるんです。そういう面ですかね。カメラを通してでしか見れない世界があるなと感じました。始めてからそれなりの時間が経ったのですごく情熱を燃やして写真を撮るという時期はもう過ぎていますが、今みたいに部屋にこんな感じで光が入ってくると撮りたいなと思います。今は生活の一部になっていますね。

はじめはフリーランスとしてデビューされたのでしょうか

-34歳の頃にInstagramで世界中のフォトグラファーをフォローしていて、その中のアメリカのフォトグラファーが急にメルセデス・ベンツの写真をあげたりとか、NIKEのスポンサードで上空のヘリコプターからNYの街の景色を撮っている様子を目にするようになったんです。今でこそ当たり前ですがスポンサードを受けて写真を撮るという流れを見る機会がとても増えて、これは日本でもそうなるんじゃないかなと感じてました。それで、翌年の2015年からフリーランスフォトグラファーとして活動していくことをブログなどで宣言し、実際に活動を始めました。
初めて企業案件をしたのは2015年の暮れ頃。フリーランスになってすぐのときに「ドゥカティ」というバイクの会社の広告を撮影して、そこからはとんとん拍子で進んでいきました。

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©Takashi Yasui

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フリーランスになってから苦労したことはありましたか

-つまづいたことはそんなになかったですね。というのも、皆さんInstagramに載せてるものを見て依頼をしてくださるわけなので、コミュニケーションの齟齬が少ないんです。コミュニケーションをとってくださった企業さんと協業しているという感覚ですかね。自分自身も性格的に浮き沈みがあるタイプではなく、淡々と継続していくことができるタイプなので、趣味の延長でやっていることをスポンサードしていただいてるという感覚に近いです。「写真が好きです」と情熱を持って伝えることもありますが、自分の中でプロという感覚はいまだにないですね。

Instagramから仕事を作るカメラマンというのは保井さんの世代が最初だったのではないでしょうか

同じ時期に始めた第一世代的なフォトグラファーは福田洋昭さん(@hirozzz)ですかね。福田洋昭さんは元々アメリカのNYで趣味として写真を撮っていたのですが、2014年のタイミングでフォトグラファーの仕事をし始めたんです。2015年に日本に帰ってきたタイミングで会って、ギャラの話などいろんなことを教えてもらいました。その頃の世代が一番最初にInstagramで仕事をするようになった人ですかね。そうは言いながらもその後の世代との違いはほとんど感じていなくて。2015,16年くらいにInstagram自体が伸び始めてから、綺麗な写真だけでなく楽しい写真や話題になる写真がすごく増えています。僕がとっている写真は作品として見てもらいたい側面もあるので、そういう面ではこれからフォトグラファーになる人とは違うのかもしれませんね。あとはInstagramのリールのような短尺動画を使って写真の撮り方を楽しく短く見せるセンスは僕らの頃にはなかったものだなと思いますね。

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保井さんの「撮るもののジャンルを定めない」というスタイルには何かバックボーンがあるのでしょうか

-仕事に繋がるプラットフォームとなっているInstagramですが、例えばひとつのコンセプトでバズって、同じテイストの写真だけを継続してしまうといざ仕事をするとなった時に依頼の幅が狭まってしまう。Instagramの仕様上、写真が一覧として見れるので「この人はこんな写真を撮るんだ」というコンセプトがひと目でわかる。そこにこだわり過ぎると長期的に仕事していくことを考えたときにきついかなと思って。最初の頃は京都をテーマに写真をたくさんアップしていたのですが、京都の仕事しかこなくなってしまって。それからは長く仕事を続けるということを見据えて、ジャンルを定めないということに拘りましたね。

保井さんが写真を撮る上でのこだわりはありますか

-いわゆるきっちりした写真を1軍とするのなら、僕が撮るのは1軍の写真とは違う側面を見据えている2軍的な写真。ある意味、素人が撮ったような写真で「自分も撮れるんじゃないかな」と思えるような写真を意識してますね。最近だとホンダさんの写真を撮ったのですが、カタログの写真ではなく、SNSなどで目にする方々と同じ目線で車を撮る楽しさ、親しみやすさみたいなものを感じてもらえるような写真を撮ることが自分の役割かなと感じていました。一昨年依頼をいただいた建築家の方からは、「ちゃんとした写真はあるから、ディテールだったり、実際にそこに人が生活している空気を感じられるような写真を撮ってほしい」とオーダーがあり、それだったら自分の役割かなと思いお受けしました。

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クライアントも保井さんの写真のテイストを理解しているということですね

-普段生活しているユーザーの目線でいいと思ってもらえる写真を意識しているということをクライアントもわかってくれているんでしょうね。「ちょっと頑張れば撮れそう」と思われる写真にする。エディットの方法も公開しているので真似してもらってもいいと思いますし、そういう再現性のある写真をやる。そういう自分のポジションをわかってくれるクライアントがいるという感じですね。

先ほど文学がお好きと伺いましたが、保井さんが撮られる写真に文学の影響はありますか

-本って一場面だけ覚えてるようなところがあるじゃないですか。断片断片でパッと思い浮かぶ、その前後がない感じがとても写真的だと思うんです。僕の写真を見ても人それぞれ感じ方は違うと思いますし、僕が撮った写真の説明を自分でしなくてもそこに何かを感じてくれる人がいると思うんです。そういう写真の魅力、色気みたいなものに取り憑かれてるなと感じますね。

これからのフォトグラファー像として思い描いているものはありますか

-今テーマになることは「継続性」だと思っています。フォロワー数とかライク数を気にして写真をアップしなくなっちゃったりとか燃え尽きちゃう人もちらほらいるので、淡々と継続していって「あの人相変わらず撮ってるな」とか「まだやってるんだ」と思われるような姿を自分自身が見せられたらいいなと思いますね。森山大道さんもそうだと思うんです。継続性自体が作品。一つ一つの作品がその人と切り分けて良いとか悪いではなく、その人の生き方とかやってること、継続性が繋がって作品になっている感じですかね。長く続けてきて改めてそこに気づかされました。

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THULEの使い心地はいかがでしょうか

-とにかく頑丈ですよね。都内を撮るときや打ち合わせの前後に写真を撮りたいときに使っていますが、撮影中になるとバッグを雑に扱うことがあるので、頑丈なところは嬉しいです。パッドもすごく厚いので機材を入れていても安心感があります。あとはサイズ感ですね。街中で撮影するときは道や人に気をつけながら撮影をしなければならないのですが、これはバッグの膨らみが薄いので街中で撮っていても邪魔になりませんし、PCも入るのでこのくらいのサイズが理想的かなと感じてます。レンズがひとつとコンデジが入って、その場で編集もできる。ポケットがいっぱいあるので細かいものを仕分けられるところもいいですね。
その日のスケジュールによって必要な荷物量も変わってくるので、それに合わせてバッグは使い分けています。小さいケースは、仕事柄細かなものが多いので綺麗に整理できて完璧ですね。バッテリーやレンズフィルター、ノート、ブロアーなどの必要品を入れて使っています。

今後の展望はありますか

-仕事は関係なく街の写真はこれからも撮っていくと思いますし、誰でもいつでも始められる時代になったからこそ、今やっていることを継続するというところを大切にしていきたいですね。あとは文章を書くことも文学も好きなので、写真を題材にした小説を書いてみたいです。自分を題材にすれば一冊は誰でも書けると思うんです。いつになるかわからないけど、新人賞とか地道に応募してみようかな(笑)。

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  • スマートフォン:Galaxy S20+
  • PC:MacBook Air
  • カメラ:FUJIFILM X100V
  • カメラ:FUJIFILM X-T4
  • レンズ:FUJIFILM XF33mmF1.4 R LM WR
  • レンズ:FUJIFILM XF16-55mmF2.8 R LM WR

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