Thule Magazine vol.8 プロサウナー/TTNE代表松尾 大Dai Matsuo
札幌在住。福祉施設やフィットネスクラブを経営する実業家にしてプロサウナー。世界各地のサウナを渡り歩き、アリゾナの山奥で単身5日間断食断水後のサウナを経験。その後、海、川、湖、滝、なんと流氷まで水風呂がわりにしてしまうナチュラル派プロサウナーの道へ。札幌を訪れる経営者や著名人をサウナに案内し、“ととのう”状態に導いてきたことから“ととのえ親方”と呼ばれるように。2017年にはプロサウナーの専門ブランド「TTNE PRO SAUNNER」を立ち上げ、2019年2月には友人の医師らとサウナの最適な入り方を提唱する「日本サウナ学会」も設立した。著書に、本田直之氏との共著『人生を変えるサウナ術』(KADOKAWA)や『saunner book』(A-works)がある。
- TTNE:https://ttne.jp
「ととのえ親方」と呼ばれるようになったきっかけ
松尾さんのお仕事を教えてください
-何社か会社を経営する中で、フィットネスクラブなどの福祉事業や飲料の輸出入の事業などいろいろやっています。その中の一つにサウナを扱う会社も運営しているという感じです。サウナの会社は秋山と2人でやっています。
本格的にサウナの仕事が始まってからは、忙しくて、新型コロナウイルスの流行前は火曜日から金曜日まで出張、土日に自宅に帰るという生活をずっとしていました。フィンランドの「HARVIA」という世界一大きいサウナブランドと取引があって、そちらの輸入代理店もやっています。
海外はサウナのためだけに行かれていたのでしょうか
-ほぼサウナのためと言っても過言ではないかもしれないですね。元々海外に行くのが好きだったこともあって、40ヵ国ほど訪問しているのですが、行った先々でサウナがあるスパを探していました。
「ととのえ親方」と呼ばれるようになったきっかけは
-セレブ層やクリエイティブな仕事をしている方、さらにミュージシャンなどそういった方々をサウナに叩き込んでいったことがきっかけです。(笑) いろんな方が東京から地元の札幌をに遊びに来たときにお昼と夜の間にやることがなかったのでみんなをサウナに連れて行ってたんです。初めましての方でも初対面がサウナとなると、それこそ裸の付き合いからスタートなのですぐに打ち解けられる。日時を指定してサウナで待ち合わせしていました。(笑)
子どもの頃からすでにやっていたサウナルーティン
最初にサウナにハマったきっかけは地元の温泉だったとお聞きしました
-札幌の天然温泉「あしべ」というところが近所にあって、小学生の頃に友達と5,6人で行っていました。ちょうどその頃に盲腸の手術で失敗されて、それによってさらに怪我をしてしまったんです。まだ傷が治ってない状態でも友達みんながあしべに行くって言うから自分もどうしてもサウナに行きたくて、お腹にビニールシートを巻いていったんです。(笑) 盲腸の手術を失敗したことで2,3ヶ月入院していたので母親もかわいそうと思ってくれていたのか、温泉に行きたいと言ったらお腹をテープでグルグル巻きにして「これで行っておいで」と言ってくれたんです。友達みんなからも「お前それ気持ち悪いな!」なんて言われながらサウナに入っていた記憶があります。
その頃はサウナに入っている人も少なかったのでは
-意外とそんなこともなくて。若い人でサウナに入っている人が少なかったんです。サウナから出た後に水風呂に入って吐く息が冷たくなっていく感じが好きだったので、今でこそ言われているサウナのルーティン的なことを昔からやっていましたね。
実現したいのは“サウナへの恩返し”
本格的にサウナにハマったのは20代ごろだと伺いましたが、そのタイミングで事業も始められています
-元々自分の中に「商い精神」みたいなものがあったんです。幼い頃から父が様々な企業の歴史を教えてくれていましたし、自分自身そういう話が好きな子供でもありました。大人になって建設業に就いたのですが、自分にはあわないなと感じたので辞めてビジネスを始めました。
今はサウナをカルチャーにする活動もされていますが、その活動を始めた理由は
-綺麗ごとではないのですが、今一緒にサウナの仕事をやっている秋山も自分もサウナから本当にいろんなものをもらっていると感じたんです。元気になるとか、ニュートラルになるとか、人との繋がりができるとか。本当にいろいろなものをサウナからもらってきたので、サウナに恩返ししたいという思いが根本にあリました。サウナに対してだけは本気でそう思っているんです。そんなことがきっかけだったのですが、恩返しをしようと思って活動しているとまたサウナからいろいろもらってしまうので、恩を返してはまた自分に返ってきての繰り返し。これは終わらないのかもしれないですね。(笑)
松尾さんが思う恩返しとは
-サウナってどうしてもアウトローなイメージとかダサイとか不衛生とか、ずっとイケてなかったんですよね。イケてないしかっこ悪いし、さらに「サウナは辛い」なんてイメージもある。本当はそうじゃないということを伝えながら実際に感じてもらえたらいいなと考えていて、そのための活動をこの4,5年ずっとやってきています。
最初はうまく行きましたか?
-最初はうまくいかなかったですね。うまくはいかなかったのですが、やっていて自分達も楽しかった。サウナとこれまで全然結びつきがなかったものをぶつけていく中で、例えばサウナとシャンパンなんて最初は「なにそれ?」みたいな感じだったんです。でも「サウナの後のシャンパンは美味しいよ」とか「サウナの後にミシュランの星付きレストランにご飯を食べに行こう」みたいにサウナと今までリンクしたことがないものの組み合わせを提案してきました。さらに「プロサウナー」という呼び方ができたことでいろんな業界の影響力がある方々を巻き込めたと感じています。いろんな業界の影響力がある方々が「サウナっていいよね」と言ってくれる流れが3年前くらいから始まってくれました。
「ととのう」という感覚について
皆さんが松尾さんと同じように「ととのう」体験をしているということですね
-そうですね。「ととのう」を感じてくれていますし、サウナ自体がコミュニケーション手段としても素晴らしいものだなと感じています。
「ととのう」は言語化するとどういった感覚と言えますか
-逆に言うと、ずっと「ととのう」を言語化できていなかったんです。要するに「ととのう」がサウナで得る感覚を言語化した結果で、言い換えると「多幸感」とか「再起動」、「リブート」なんて言葉にもなるのかもしれません。それらを総じて「ととのう」という言葉に言語化されたことによってサウナ自体の伝わり方が変わっていった感じがしています。今ではサウナの「ととのう」感覚が社会のためにもなるんじゃないかと考えていますね。
松尾さんの性格の明るさはサウナも関係しているような気がします
-絶対影響しています。日頃サウナに入ってスッキリすることで自分のニュートラルな状態がわかっているので、「心が淀んでいるな」とか「人にきつく接してしまっているな」と自分がニュートラルではない状態がわかるんです。サウナがあることでその状態を修正できる。
疲れていたり、人によくない接し方をしてしまう時は、感謝や何か大切なことを忘れてしまっている時が多いですよね。だからサウナに入ることでまた感謝や大切なことを意識できるように自分の状態をリセットするんです。そうすることで明るい自分でいれているんだと思います。
未来のサウナーのために「良いサウナ」を増やしたい
プロサウナーとしての活動には他の目的もあるのでしょうか
-実は日本の99.9%のサウナは発祥の地でもあるフィンランドのサウナと違うものになっているんです。どっちが良いか悪いかの話ではないのですが、例えば女性がサウナをあまり好まないのは乾燥機みたいなサウナが原因だと感じています。「息を吸えば熱くて乾いてて苦しい」というのが日本の99.9%のサウナです。僕達は「そうじゃないサウナもちゃんとあるんだよ」ということをずっと発信しているんです。本当のサウナって実は「ウェット&マイルド」で、湿度がちゃんとあって心地良いものなんですよね。ロウリュのように水がかけられないとか、湿度がないなんてサウナは日本くらい。もっと心地よいサウナがあるということを広めていくためにサウナストーブの輸入などもしています。
「乾燥機みたいなサウナ」がある種、日本特有のサウナになっているのでしょうか
-日本特有というよりは、サウナ自体が間違って伝わってしまってますね。他の点を言うと、例えばサウナは一番上の方に行った熱をちゃんとキャッチできるようにメインの座面を高めに置くのが適切なんですが、日本のサウナは座面の高さが低いんです。フィンランドではちゃんと温まることを重要視しているのでサウナの座面が高くなっている。
歴史という観点から見るとフィンランドはサウナの歴史が2,000年くらいあるんです。日本には蒸し風呂の文化はあったのですが、サウナがきたのは1960年ぐらいから。実は歴史としては60年ぐらいしか経っていないんですよね。フィンランドに比べたら赤ちゃんみたいな歴史の長さなのですが、それでも日本には風呂の文化があるので温浴施設は5,000施設ほどあるんです。そんな国は世界中探してもどこにもない。その温浴施設にサウナがついているわけですが、サウナの文化だけはちゃんと伝わらなかったんですね。いつまでも乾いたサウナのイメージのままだと「サウナが嫌い」となってしまう人が減らないので、それはそれとしてもっと本格的で「ウェット&マイルド」なサウナもあるよということを伝えていくことに力を注いでいます。
サウナに取り入れたい「デザイン」と最高だったサウナ/これから行きたいサウナ
今後より一層サウナをカルチャーにしていく上で必要なことはなんでしょうか
-これからはより一層本質的な心地よさにフォーカスしたほうがいいと思っています。サウナもカルチャーになってきましたが、カルチャーになったことで新しくサウナを好きになった人も増えてきました。サウナを好きになってくれた人たちは段々といろんな違いについてわかるようになってきますよね。そういう人たちのためにも今後ちゃんとしたサウナが増えていって欲しいと感じています。あとは外見でも内装でも「入りたい!」と思われるサウナが本当に少なかったので、デザインからこだわったサウナも作ろうと現在動いています。
これまでに行って最高だったサウナやスパ、そしてこれから行きたいところはありますか
-これまで行って最高だったところはベルリンですね。ベルリンの「Vabali」(ヴァ バリ)というバリをイメージしたスパで、老若男女問わず500人くらいの人が素っ裸で混浴で入っているんです。凄かったですね。
これから行きたいところはストックホルムの「Yasuragi Spa Hotel」(ヤスラギスパホテル)。プールサイドに東屋みたいなものがあって、サウナがどれだけあるのかわからないのですが、プールにすぐ入れるんです。ここは気になっていますね。
サウナ巡りの旅スタイルにハマるスウェーデン発の「わかってる」バックパック
松尾さんの旅のスタイルとTHULE スーリーのバックパックの関係は
-基本的には旅はバックパックだけですね。バックパックひとつで1ヶ月くらいは旅に行けます。このTHULE スーリーのバッグはメガネを安全にしまえてメガネケースがいらないところが気に入っています。サウナに入る時はコンタクトレンズをするので、ハードケースにメガネをしまえるととても楽なんです。さらにサウナ発祥の地のフィンランドと近いスウェーデン発祥というところが気に入ってますね。あとは背負い心地が良い。ショルダーストラップのカットがいいんだと思います。サイドポケットに折り畳み傘も入れられるし、気の利いた収納や背負ったときの楽さは魅力的ですね。あとは夏に背負っていても背中が気持ち悪くならない。熱や湿気を逃してくれる背中の構造のおかげで不快感があまりないんです。15インチのPCが入るところも仕事柄助かりますね。
小物入れもお風呂場でも使えるよう水に強い仕様になっているので何も考えずに安心して使えます。スウェーデンのものってサウナもそうですけれど、本当によく考えられているなと感じます。考えられているというか「わかってる感」がすごいんです。新型コロナウイルスの影響が落ち着いて海外に行けるようになったらTHULE スーリーと一緒にスウェーデンのサウナをもっと深掘りしていきたいなと感じています。
目の前の人にもっとサウナを好きになってもらいたい
松尾さんのプロサウナーとしての今後の目標はありますか
-面白いサウナをたくさん作ることですね。面白いサウナが全国にたくさんあれば日本の方も喜ぶし、海外から来る方もそんなサウナがあるのかと楽しんでいただけるでしょう。例えば、地方に美術館を作ったところで行っても年に1回や2回の方がほとんどですよね。サウナだったら人によっては毎日サウナに来る人もいるかもしれない。サウナが毎日行けるところだからこそ、地域の人を癒す場所ができたらいいなと感じていて、そんなサウナを増やして行きたいです。あとはとにかく目の前のことですね。目の前の人にサウナを好きになってもらうこと。大きな展望よりもそこをコツコツとやっていきたいです。